「ふぅ~、やっと終わった」
伊沙波は作業場の椅子に腰をおろすと、意識がすーっと落ちていった。昨日から夜通しでバトルドライバーの修理に追われ、一睡もしていなかったのだ。
遠のく意識のなか、白い霧に包まれる感覚に、懐かしい気持ちが広がっていた。
作業場に戦闘ロボの帰着を知らせるサイレンが鳴った。伊沙波は夢のなかから引き戻され、反射的に立ち上がると格納庫に向かった。
そこには戦場から遅れて帰還したばかりの戦闘ロボが立っていた。
“またひどくやられたわねぇ。でも大丈夫。カンペキに直してあげる”
「ちょっと腕と翼を動かして!」
伊沙波は整備道具を手に取って叫んでいた。
「伊沙波、まさかいまから整備しようというんじゃないでしょうね…。」
整備長はこの3日間、伊沙波がほとんど寝ずに整備にあたっているのを知っている。休みを取れといくらいっても、そこに傷ついたバトルドライバーがいると、伊沙波は戦闘回路を確認せずにはおれないのだ。
「まさか。回路をチェックするだけ。修理は明日にする」
“それを休めといってるのに…。”
整備長はあきれ顔で、もうそれ以上言うのをやめた。いつものことだ。
“先に、あなたの体のほうが壊れると思うけど”
“やっぱり…。”
伊沙波はコックピットに潜り込むとすぐに、小さな不具合を見つけた。不具合というと少し大げさか。しかし、あと何回か大きな振動が加わるときっと大きな故障につながる経年変化だった。
SUNFLAG社専属メカニック。バトルドライバーの整備を担当。過去にパイロットだった父を整備不良の事故で亡くしている。
成層圏で高い機動性を発揮する最新型。その他の性能はまだ公開されていない。
メカニックの伊沙波が愛用。細部まで手を抜かない伊沙波らしい工具。